時をかけたい私のブログ

イケメン戦国についてたくさん変更していきます。ネタバレ多く含むのでご注意を。

スマホアプリ、イケメン戦国時をかける恋について色々書いていきます。
※ネタバレ多く含みます

上杉謙信 第3話(前半)



※ネタバレ注意


※名前は双葉です



ーーーーーーー



謙信様は私が自分の足で立ったことを確認すると、すぐに手を離した。

(怖いのか優しいのか、よくわからない人だな)


謙信「ついて来い」

「はい…っ」

それきり私のことを見ようともせず歩き出した謙信様を慌てて追う。

冷たい横顔をちらりと眺めて考えを整理しようとした時、

ふと、佐助くんと交わした会話が脳裏をよぎった。


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佐助「ああ、そうだ。これだけは言わせて」

「何?」

佐助「謙信様のこと。ああ見えて、悪い人じゃないんだ。信じてもらうのは難しいかもしれないけど、頭の片隅に留めておいて」

「わかった。覚えておくね」

佐助「ありがとう」

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(佐助くんの言葉を信じるなら、謙信様はただの怖い人じゃないはずだ。そうだ、刀を向けられた時にだって……)


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謙信「自覚しろ、お前の命は儚い。戦乱に抗うすべを持たぬ女という生き物は、この乱世ではたやすく散っていく」

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(怖い思いをさせられたけど、謙信様の言ったことはもっともだった。私の考えは、この時代の人からするときっと甘い……かといって、人が殺されるところを黙って見てることはできないけど)


私と謙信様の間に深い溝があっても、歩み寄る努力はしたかった。

大きく息を吸い込んで、謙信様の背中に呼びかける。

「……あの、謙信様。ありがとうございます」

謙信「何の話だ」

立ち止まり振り返った謙信様が、怪訝そうな顔をしている。

「さっきは驚いてしまって、ちゃんとお礼が言えてなかったので。謙信様には、二回も助けていただいたことになります。なんとお礼をすればいいのかわかりません」

謙信「……お前は何を考えている?」

「え?」


まじまじと私を見つめる目に、かすかな戸惑いの色が浮かんだ。

謙信「俺はお前を力で制圧し、刀で脅しつけたんだぞ。どういう思考回路をしていたら、その相手に礼を言う気になるのだ」

「確かに、謙信様の刀が自分に向けられた時は、すごく怖かったです。人を簡単に殺そうとしたことも、やっぱり理解できそうにありません。でも…謙信様が私を助けてくださったのは、事実ですから」

謙信「考え違いをするな。俺は退屈しのぎにあの者たちを斬り伏せようと思っていただけだ」


(でも……)

ずっと頭の中に引っかかっていた違和感をぶつけてみる。

「それなら、戦いが終わった今、私を送ってくださる必要はありませんよね?」

謙信「……」

黙り込んだ謙信様を見て、はっとする。

(この反応……)

「っ……退屈しのぎなんて関係なく、最初から私を助けてくれるおつもりだったんじゃないんですか?」

謙信「違う」

私が直感的に閃いた考えを口にすると、謙信様は憮然とした表情になる。

謙信「俺は己の責任を果たそうとしただけだ」

「責任?」

謙信「食事処でお前があの男たちと揉めた時、俺が割って入り奴らを中途半端に刺激した。浪人どもが今日、お前を追いかけ回したのはそのためだ。穏便に済ませるのは向いていない。ならば、最初から徹底的に潰しておくべきだった。となれば、今からでも原因の男たちを滅して問題を解決するのは俺の責任だろう」

(あの時……そんなふうに考えてたの?)


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浪人2「ま、まあ、待てよ。俺たちも冗談が過ぎた、話せばわかるって…」

謙信「話すことなどない――俺が間違っていた」

浪人2「え?」

謙信「お前たちのような雑魚など、斬って捨てる価値もないと思っていた。だから、一度は見逃した。だが、違った。お前たちは生きているだけで害を為す。己の愚かさを悔いろ。……この世ではもう間に合わなかったとしても」

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(浪人たちを殺そうとしたのは、謙信様なりの償いだったの……?)

驚いて、謙信様を見上げる。

感情の読めない冷たい顔に、初めてはっきりと血が通って見えた気がした。

(私は、この人のことを誤解してたのかもしれないな)

謙信「わかったら、戯言をさえずるのはやめて大人しく歩いてろ」

「はい、わかりました。謙信様が、優しいところのある方だっていうことが」

謙信「何?」

「私はやっぱり人を簡単に殺すのは間違ってると思います。だから、同じ場面になったらきっと何度でも謙信様を止めてしまうでしょう。だけど、謙信様が私のことを考えてくださった上での決断だったと知れてよかったです」

謙信「……お前と話していると、調子が狂う。妙な女だ」

視線を注がれて、緊張で胸がとくっと鳴った。


謙信「お前はいつもそうなのか?」

「どういうことですか……?」

謙信「お前は愚かなまでに楽観的で人を信じやすく、それでいて驚くほど頑なだ。己の甘さで危険に陥り、子ウサギのように震えているかと思えば、俺に対して物怖じもせずに意見をぶつけてみせる」

(もしかして、気に障ったのかな)

「ええっと……自分ではよくわからないです」

首を捻るわたしを見て、謙信様はひやりとした笑みを浮かべる。

謙信「無自覚か。余計に性質が悪い。さぞ、周りに大切に育てられて何ひとつ不自由することなく暮らしているのだろうな」

(周りの環境か……)

「確かにこの乱世で住むところも食べるものも与えられてる私は幸運だと思いますけど、最近、突然身の回りの環境が変わったので、苦労することも多いですよ」

謙信「苦労?」

「奉公先の人たちが何を考えてるかわからないし、自分の居場所がないような気がしてしまって。新しい環境に早く馴染まなきゃって思ってるんですけどね」

(いけない、こんなこと謙信様に言ったって仕方ないよね)



◎ すみません(選択肢 4+4)



「すみません、なんだか愚痴のようになってしまいました」

謙信「まったくだ。お前が何を悩んでいるのか俺には理解できない」

(そうですよね…)

ここまで堂々と斬り捨てられると、いっそ清々しい。

謙信「周りの思惑など、考慮するだけ無駄だ。己の好きなように生きればそれでよかろう」

(謙信様は、確かに自分の思う通りに生きてそうだよね)

「私も、そんなふうに生きられる強さがほしいです」

素直に羨ましくなってそう呟くと…

上杉謙信 第2話(後半)



※ネタバレ注意。


※名前は双葉です。


ーーーーーーー


そして数日後――

私はまた、城下の雑踏の中を歩いていた。

(この時代での生活には慣れてきたけど、安土城ってなんとなく居心地が悪いんだよね)

世話役の仕事を特に与えられることもなく、

信長様を初めとする武将たちはみんな忙しそうで声もかけづらい。


(でも、そろそろ帰らないと日も暮れちゃうな。あと、少しだけ市を見て戻ろう)

城下の市には、三成くんが教えてくれた通り色々なものが売っている。


(わあ、綺麗な布……!)

立ち止まって、一軒の店先に出ている反物を眺める。

鮮やかな色や繊細な柄に目を奪われると同時に、押し込めていた心細さが込み上げてきた。

(服を、作りたいな……。本当に私、五百年後に戻ってデザイナーになれるのかな……だめだ、弱気になるのはよくない)


気を取り直して顔を上げたその時……

「あれ、あの人たちって……」

道の向こう側にいる男の人たちの姿が目に入る。


浪人1「っち…むしゃくしゃするぜ」

浪人2「憂さ晴らしでもしねえとやってらんねえな」

(嘘。あの時、食事処で乱暴してた人たちだ。見つからないうちに、ここから離れよう)

こっそりと歩き出そうとするけれど……


浪人1「おい、あの女…」

浪人2「…!見覚えのある顔じゃねえか」

(見つかった!逃げなきゃ)

こっちに向かって来ようとする男たちを見て、慌てて駆け出す。

浪人1「あっ、待ちやがれ!」

(もう嫌、何でこんな目に…)

いくつもの路地を通り抜け、走り抜け――

(どうしよう、中心部からかなり離れちゃった。しかもいつの間にか真っ暗…)

灯りもない城下の外れに来てしまった私は、呆然と辺りを見回す。

(とりあえず、あの人たちが諦めるまで身を隠さなきゃ)

背の高い草むらの間に身を隠していると……


???「おい」

(見つかった!?)

後ろから声をかけられて、小さく悲鳴を上げる。

謙信「……頓狂な声を上げるな」

「謙信様!?どうしてこんなところに…」

(あの男の人たちじゃなくてよかったけど)

宵闇にほの白く身体を浮き上がらせ、謙信様が不機嫌そうにたたずむ。

謙信「夕餉の前に、野盗でも倒して腹を空かせようと思っていたところだ」

(野盗狩り……?食前の運動にしては物騒すぎる)


謙信「お前の方こそ、このような時刻に町外れで何をしている」

「実は……この前、食事処で乱暴してた男の人たちに追われて逃げてきたんです」

謙信「あの浪人どもが?」

「はい。まだ探してるかもしれないので、もう少しここで待ってから帰ります」

(途中で見つかって追いかけられませんように…)


謙信「…………」

ふと気がつくと、謙信様が何かを考えこむような顔をしていた。

「謙信様?どうかされたんですか?」

謙信「――仕方ない。お前の奉公先まで俺を案内しろ」

「えっ」

謙信「お前とともに行動すれば、あの浪人どもが、のこのこと襲ってくるかもしれん。退屈しのぎに返り討ちにしてくれる」

(動機は物騒だけど、要するに送ってくれるってことか…)

謙信「反論があるのか」

「い、いいえ。ないです」

高圧的な口調に首をすくめ、反射的に返事をする。

(怖いのは確かだし、お言葉に甘えてもいいのかな)

「じゃあ、大通りまで送っていただけますか?住んでいるところはその近くなので」

謙信「良かろう。さっさと行くぞ」

「はい……っ」


謙信様に促され、歩きだす。

(おかしなことになったな……女嫌いで有名な敵陣の武将に送ってもらうなんて)

草むらの間を吹き抜ける風の音が、気まずい沈黙を埋める。

私の少し先を歩く背中を、懸命に追いかけた。


謙信「久しく忘れていた。女というものは、足が遅い」

「っ、すみません」

焦って早足にしようとするけれど…

謙信「急がせるつもりはない。走って転ばれても手間だ。そもそも女の足が遅いのは、危険な目に遭わず生涯を安穏のうちに過ごすように定められているからだ」

(え……?)

謙信様はすっと歩調を緩めて歩き続ける。

(今の台詞、どういう意味?それに、私の速さに合わせてくれた?)

「ありがとうございます。あの…」

謙信「礼は不要だ」


凍えそうな声にぴしゃりと疑問を遮られ、唇を噛んだ。

(なんだか……謙信様は女嫌いというよりも、わざと遠ざけようとしてるみたいだ)


それを確かめるすべもなく考えあぐねていると、


浪人1「いたぞ、捕まえろ!」

草を踏み分ける乱暴な足音とともに野卑な声が響いた。

浪人2「ちょこまか逃げ回りやがって。覚悟しておけよ、お嬢ちゃん」

「ここまで追いかけてくるなんて……!」

男たちのどす黒い執念にぞっとする。


謙信「ほう、思ったより早かったな。だが、おかげで手間が省けた」

(あ……)

隣に並び立った謙信様の唇が愉悦の形に弧を描いた。

(笑ってる……)

人の笑顔を怖いと思ったのは初めてだ。

駆け寄ってくる浪人たちを前に、謙信様の身体から戦いの飢えがかすかに滲むのがわかる。


浪人2「おい…連れの男、この前の奴じゃねえか!?」

謙信「ようやく気付いたか。だが、老人を虐げ女を追いかけ回す愚か者にしては記憶力がいい」

浪人1「っ……しゃらくせえ。この前は不意を突かれただけだ。やっちまおう」

浪人2「食らえ!」

抜き放たれた刀がぎらりと光りながら謙信様に迫り――

(危ない!)


謙信「軟弱な太刀筋だ」


刹那、目にも止まらぬ速さで抜刀した謙信様が男たちの斬撃を弾いた。

浪人1「ぐっ」

ただ一度の打撃で男のひとりは刀を取り落とす。

(すごい……!)

浪人2「てめえ!」

謙信「失望した。雑魚相手の戦いほど気落ちする出来事はない」

斬りかかってくるもうひとりの刀を難なく受け止め、謙信様は嘆いた。

(挑発じゃなくて、本心から言ってるみたいだな)

無造作に振るわれた刀が、白くきらめいて相手の刀を打ち払う。

その動作は戦いの最中なのにひどく優雅で――視線が離せなくなる。


浪人1「な、なんだお前は…」

謙信「お前らに名乗る名はないと、この前も言ったはずだ」

静かな迫力にあてられ、浪人たちは次第に後ずさる。

浪人2「ま、まあ、待てよ。俺たちも冗談が過ぎた、話せばわかるって…」

謙信「話すことなどない――俺が間違っていた」

浪人2「え?」

旗色が悪いとみて取ったのか言い訳を始める浪人の声を、謙信様が冷たく遮る。


謙信「お前たちのような雑魚など、斬って捨てる価値もないと思っていた。だから、一度は見逃した。だが、違った。お前たちは生きているだけで害を為す」

物憂げに刀を構えた謙信様の目が、すっと細められた。

謙信「己の愚かさを悔いろ。……この世ではもう間に合わなかったとしても」

恐ろしいほど静かな声に、夜の風ごと空気が凍りつく。

(っ……殺す気なんだ、この人たちのこと)

不吉な予感に心臓がぎゅっと締め付けられた瞬間、

闇を切り裂くように謙信様の白刃が走り、浪人たちに迫る。

(だめ……っ)

「待って!」

謙信「何……?」

ぴたりと動きを止めた謙信様が、険しい顔で私を見た。

「その人たちを、殺さないでください……お願いします」

震える声で言い募ると、

浪人1「に、逃げろ」

浪人2「あ、ああ…」

その隙に男たちは転がるように走って行く。

(よかった……)

その場にへたりこんでほっと息をつくけれど…


謙信「なぜ、止めた」

(あ……)

頭上から冷たい声が降ってきて、びくりとする。

「何も殺す必要は、ないんじゃないでしょうか……」

謙信「襲ってきた相手の心配をするとは、お前はずいぶんと余裕があるようだ。その言葉、よほどのぬるま湯に浸かって来たのでなければ、やすやすと口にはできまい」

(……この時代の人たちから見たら、五百年後の世はぬるま湯なんだろうな)

鼻で笑われながらも、なんとか反論を試みる。

「でも、人の命は簡単に奪っていいものじゃないと思います。あなたにも亡くしたら哀しいと思う人がいるんじゃないですか?」


その瞬間、月に雲がかかったように謙信様の瞳が暗く濁った。

謙信「――俺にそんな者はいない」

「え……?」

抜き身の刀を持った謙信様が気だるげに私の前に膝をつく。

謙信「俺にとって、すべての命は平等に無価値だ。息をするように、瞬きをするように命を奪える。このように――」

(あっ)

肩を強く押され、恐怖で声を上げるよりも早く視界が反転する。

月明かりを弾いて白刃の切っ先が落ちてきた。

(斬られる――)

何も考えられず、固く目をつむる。

けれど……

(あれ、痛くない……?)

恐る恐る目を開けると……

刀が地に突き立てられ、視界の隅で鋭い光を放っているのが見える。


だけどそれ以上に恐ろしいのは、すぐそばで私を見下ろす二色の瞳。

謙信「自覚しろ、お前の命は儚い。戦乱に抗うすべを持たぬ女という生き物は、この乱世ではたやすく散っていく」

(怖い。……なのに目が、逸らせない)

虚ろな謙信様の眼差しに、月光が吸い込まれているみたいだった。

(まるで、何もかも諦めてしまってるみたいな顔。脅すようなことをしてるくせに、どうして)

声も上げられず、ただ見つめていると……


謙信「……柄にもない、つまらないことを言った」

謙信様は刀を引き抜き、ゆっくりと立ち上がる。

今までの出来事が夢だったかのように、その瞳には強い意志の光がみなぎっていた。

(いったい、何だったの……?)

身体を起こすけれど、立ち上がる気力はなく地面にぺたんと座る。

どこか優美な仕草で刀を収める謙信様を、ぼんやりと眺めていた。


謙信「何を呆けた顔をしている。さっさと行くぞ」

「え?」

謙信「大通りまで送っている途中だっただろう。夜更けまでここで過ごしたいのか」

「違いますけど…」

(戦いは終わったのに、まだ送ってくれるつもりなんだ。……意外だな)

謙信「もしや、恐怖で立てないのか?」

謙信様は私を呆れたように見下ろして片手を伸ばす。

謙信「世話の焼ける女だ」

(この手を掴めってこと…?)

イケメン戦国 第2話(前半)


※ネタバレ注意。


※名前は双葉です。


ーーーーーーー


謙信「その色々の内容を聞かせろと言っている」


しどろもどろに言い訳を始めようとしたその時――


佐助「あれ、謙信様と……双葉さん?異色の組み合わせですね。ふたりで何やってるんですか?」

「佐助くん!」

ひょっこりと佐助くんが現れて、私たちを見比べる。

謙信「佐助か……。勝手に組み合わせにするな。俺はこの怪しい女の素性を尋問しようとしていただけだ」

上杉謙信は私から離れ、佐助くんを睨んだ。

佐助「ああ、彼女は……」

佐助くんの落ち着いた眼差しが、少しだけ思案するように私に向けられた。


佐助「双葉さんは、この安土の武家のもとで住み込みの仕事をしてるんです。本能寺の一件で俺たちと会った時は、京へ旅をしている最中だったそうです」

(確かにタイムスリップしちゃったのは京都旅行の時だし、『武家のもと』に住んではいるけど…)

嘘もつかず鮮やかに誤魔化してしまった佐助くんの頭の回転の速さに、密かに感心する。

謙信「ただの町娘か。本能寺の一件に関わりのある女ならば、戦の火種に使えるかと思ったものを」

「えっ」

(戦の火種って、人質にしたりするってこと?やっぱりこの人には、私が織田軍のもとにいることを知られるわけにいかない……!)


佐助「敵地で問題発言をしないでもらっていいですか。ただでさえ謙信様は目立つんですから」

佐助くんの淡々とした口調の中に、わずかに呆れがにじんでいる。

謙信「堂々と振る舞った方が案外、気付かれないものだ」

謙信様も腹を立てる様子はなく、傲然と言葉を返す。

(佐助くん、すごいな。上杉謙信と対等な口を利いてる…)


謙信「あの信長も、まさか敵の将たる俺が安土に潜入しているとは思わないだろう」

(ちょっと待って!)

「あの、私、聞いてますけどいいんでしょうか」

(私がただの町娘だったとしても、大問題だよ)

謙信「ほう、密告するか」

色違いの瞳が、危うい光を帯びてわたしを見据えた。

謙信「この上杉謙信の首を献上すれば、さぞかし褒美がもらえるだろう」

(っ…圧倒されてしまいそう)

佐助「謙信様、レッドカード。かなさんを脅さないでください」

謙信「れっどかーど…?」

佐助「一発退場って意味です」

割って入った佐助くんのどこかとぼけた口調に、謙信様が首を捻る。

(助かった。佐助くん、ナイス!)


佐助「彼女は戦に興味がないし、密告なんてしません。そうだよね?かなさん」

「っ、うん。そもそも助けてもらった身で密告なんてできないよ」

私の言葉を謙信様は一笑に付した。

謙信「もとより、こそこそと身を隠して動くのは性に合わない。素性が知れたら、それはその時というものだ」

(でも…)

「でも見つかったら大変な目に遭うのは……あなた、謙信様じゃないですか?」

謙信「そうなればそうなったで面白い。わざわざ安土に来た甲斐があったというものだ」

(面白いって、どこが?)

「……殺されてもおかしくないですよね?」

謙信「俺が殺される、か。幾千の矢と鉄砲の飛び交う戦場で死なぬ俺が、このような城下で果てるはずもない」

(どうしてそんな確信が持てるの?)

冴え冴えとした笑みの意図が読めないまま、ぞくりと震えが走る。


謙信「俺は退屈しているのだ。早く大戦を起こさなければ、この心は飢えてしまう」

(三成くんが言ってたみたいに、本当に戦が好きなんだな)

考えるより先に、ストレートな疑問が口をついて出た。

「謙信様は、どうしてそんなに戦がお好きなんですか?たくさんの人が死ぬだけじゃなくて、謙信様自身も命を落とすかもしれないのに」

佐助「双葉さん…」

(しまった、余計なこと聞いたかな)

佐助くんの驚いたような顔で我に返る。


謙信「妙なことを聞くのだな、お前は。俺は死を恐れたことなどない」

ふと謙信様は物憂げに目を伏せ、長いまつ毛がその顔に影を落とす。

謙信「――死線を潜り抜ける間だけが、俺に生の実感を与えるのだから」


(その顔は、何……?)

凍てついたような表情の下で、一瞬だけ大きな熱が揺れた。



◎質問する (選択肢 4+4)



「……何か、理由があるんですか?戦でしか生の実感を得られないのには」

謙信「理由だと?……そんなものは、ない」

謙信様は、冷たく私の言葉を否定する。

謙信「とにかくお前には関わりのないことだろう。戦場に行くこともない女には、理解する必要もない」

(それはその通りだ。でも…)

さっき一瞬だけ垣間見た謙信様の表情が、無性に胸にひっかかる。

(もしかしたら謙信様は、ただ純粋に戦いを楽しんでるだけじゃないのかもしれない)


「あの、余計なお世話だとはわかってますけど…戦以外に、楽しいことはたくさんあると思います」

謙信・佐助「…………」

謙信「お前は何を言っている」

気まずい沈黙のあとで、謙信様がぽつりと口を開く。


その眉間に刻まれたしわを見て、早くも発言を後悔しそうになるけれど…

(いや、もうこうなったら思ってることを素直に言うしかない)

「戦いの中でしか生を実感できないのは、私には哀しいことに思えます。だから……謙信様にも、いつか言浸かるといいなって思います。戦以外の、楽しいことが」


まっすぐに謙信様を見据えると、その色素の薄い顔にかすかな驚きの表情が浮かんだ。

謙信「……生意気な女だ。まあ良い。俺は戦に生きて、死ぬ。女に構う暇などない」

謙信様はばさりと羽織を翻し、話題を終わらせる。


謙信「先にお前のねぐらに行っているぞ、佐助」

佐助「わかりました。くれぐれも騒ぎを起こすのは避けてください」

謙信「守れない約束はしない主義だ」

「あ……」

(行っちゃった……。結局、分かり合うことはできなかったな)


悠々と去って行く謙信様を見守り、佐助くんがこちらに向き直る。

佐助「謙信様が迷惑をかけたみたいで、ごめん」

「違うの、むしろ私は助けてもらったんだ」

佐助「謙信様が君を?」

「うん。実は……」


私が事の次第を説明すると、佐助くんは深く頷いた。

佐助「そんなことがあったのか。大変だったな」

「うん。謙信様のおかげで無事だったけど…私が考えなしの行動をしたから、謙信様の気に障ったのかもしれないな」

私に接する時、謙信様は終始、冷たい眼差しをしていた。

(突き放されて、ろくにお礼も言えなかったな)


佐助「ああ、それは君のせいじゃない。謙信様は、女性嫌いで有名なんだ。誰に対してもああいう態度だから、気にしないでほしい」

「そうだったの……?」

(女性嫌いか……。だとするとあの冷たい態度も納得だな)

佐助「それと、俺が織田軍の敵陣営にいることを黙っててごめん」

佐助くんは無表情な顔をわずかに曇らせた。


佐助「もう気づいてると思うけど、俺がこの時代で仕えてる主君は謙信様なんだ」

(やっぱりそうだったんだ…)

わだかまっていた疑問が解消されて、少しすっきりする。

「気にしないで。立場上、私に軽々しく言うわけにいかないよね」

佐助「もっとも謙信様本人に隠す気があまりないから、織田軍の人たちも謙信様が生きてることに勘づき始めたみたいだけど」

「うん。今日、安土城でちょうどその話が出てたから、謙信様に逢った時はびっくりしちゃった」

佐助「誰にも言わずに越後を抜け出したから、謙信様の城、春日山城はちょっとした騒ぎになったみたいだ。困った主君だけど、結果的に君を助けられたならよかった」

(なんだか、佐助くんも苦労してそうだな)


「佐助くんは、タイムスリップのあと、謙信様の命を助けたって言ってたよね?それ、具体的にはどういう経緯だったの?」

佐助「ああ。四年前に俺がタイムスリップした場所は戦場だったんだ。その時に目の前で謙信様が倒れてたから、救命措置を行った」

「救命措置……?」

佐助「大したことはしてない。気道の確保、呼吸の確認、心臓マッサージ…とひと通りのことをしただけだ。場所が場所だけに、周囲の安全を確保するのが大変だったけど」

(淡々と言ってるけど、すごすぎる…)


「タイムスリップの直後でも冷静だったんだね、佐助くんは」

佐助「君だって、信長様の命を助けてる。刺客から救うなんて、そっちの方がよほどハードルが高いと思う」

「あ、そっか…」

(とっさのこととはいえ、あの時はよく身体が動いたな)


佐助「とにかくそれがきっかけで、謙信様お抱えの忍者集団、軒猿に入れてもらって修行した」

「それで忍者に……。波乱万丈だね!五百年後で自伝を出したらベストセラーになりそう」

佐助「戦国ライフを楽しんでたら、そうなってしまっただけだ」

(楽しむか……。佐助くんは適応能力が高いんだな)

この時代に馴染めずに途方に暮れている私とは、大違いだ。

尊敬の眼差しで佐助くんを見つめる。


佐助「まあとにかく……俺は忍者の修行をし、謙信様は表向き死んだことにして城主の座から退いた。もちろん、実際に上杉家を動かしてるのは、今も謙信様だけど」

(うーん。段々、混乱してきたな)

「どうして謙信様は死んだふりなんてしてるの?」

(何か、壮大な企みがあるとか…)


佐助「謙信様は城主を退くことで、何のしがらみもなく、戦の前線に立ちたかったみたいだ」」

(そんな理由!?)

意外な答えに、あ然として聞き返す。

「ええっと、冗談、だよね?」

佐助「残念ながら、謙信様はそういう困った人なんだ」

(信じられない……)


佐助「強敵、信長様と戦いたい謙信様はその機会を虎視眈々と狙い…同じように死んだふりをして身を隠してた武田信玄と同盟を結んだ。信玄様とその部下の幸村…幸って呼ばれてた男とは、君も会ってるはずだ」

「うん……。本能寺の夜のことだよね」

一度に詰め込みすぎた情報を、頭の中で整理する。

(死んだはずの信長様の敵、謙信様と武田信玄は生きていて同盟を結んでる。いずれ、織田軍に対して戦を起こすために)


「聞いておいて何だけど、ここまで私に話して大丈夫なの?」

佐助「今日、俺が話したことは近いうちに織田軍も知ることになる。それに…」

佐助くんが真剣な眼差しで私を見つめる。

佐助「知り合って間もないけど、君は信用できる女性だと思う」

「ありがとう…」

(佐助くんみたいな人に、信用してもらえるのは嬉しいな)

心の内側がほのかに温かくなった。


佐助「ああ、そうだ。これだけは言わせて」

「何?」

佐助「謙信様のこと。ああ見えて、悪い人じゃないんだ。信じてもらうのは難しいかもしれないけど、頭の片隅に留めておいて」

(悪い人じゃない、か……。佐助くんがそういうなら確かなのかもしれない。実際、やり方は荒くても私のことを助けてくれた。本人はただの気まぐれだって言ってたけど…)

「わかった。覚えておくね」

佐助「ありがとう」

(あ、笑った……)

出会った時からあまり笑ったところを見ない佐助くんの唇が、わずかにほころんでいた。

(佐助くんと謙信様の間には、特別な絆があるみたいだな)

人を寄せ付けない雰囲気の謙信様も、佐助くんと話す時にはどこか人間味が感じられた。


その後も、しばらく佐助くんと他愛ない会話を交わし……

帰りは安土城の近くまで送ってもらった。