時をかけたい私のブログ

イケメン戦国についてたくさん変更していきます。ネタバレ多く含むのでご注意を。

スマホアプリ、イケメン戦国時をかける恋について色々書いていきます。
※ネタバレ多く含みます

上杉謙信 第4話(後半)


※ネタバレ注意


※名前は双葉です


ーーーーーーー


謙信「何だ。また、お前か」

「謙信様!」

謙信「なぜ俺の視界にうろちょろ入ってくるのだ」

(相変わらず素っ気ないな)

「お言葉ですけど、今のは謙信様がご自分から近づいてきたんじゃないですか」

謙信「お前がかがんでいたせいで、姿が見えなかった。次から歩くたびに狼煙でもあげて存在を知らせておけ」

(狼煙!?)

「それはいくら何でも目立ち過ぎだと思います…」


謙信様と会話する私を見て、幸村がなぜかあ然とした顔をする。

幸村「……なあ、佐助。あれ、どうなってんの。謙信様が普通に女と話してるんだけど」

佐助「さあ……。この前見た時は、お互いにもっと距離があったと思うけど。どうやら俺も知らない間に何か起こったみたいだな」




◎大げさじゃない? (選択肢4+4)



「ふたりとも……?普通に会話してただけでちょっと大げさじゃない?」

幸村「いいや、信じらんねー事態だぞ。お前……ほんとに女か?」

「女に決まってるよ……!」

佐助「幸村、気持ちはわかるけど今のは双葉さんに失礼だ」

謙信「邪推を今すぐやめないと斬るぞ」

謙信様がうんざりしたように口を挟む。


謙信「俺は明日越後に帰る。そのことを伝えるべく立ち寄っただけだ」

(っ、そうなんだ…)

佐助「急ですね。居座るって言ってたから、もうしばらく滞在するのかと」

謙信「越後の家臣から文が来てな。この前傘下に治めた国で内紛が起こっているらしい」

幸村「そんなの謙信様が直々に行かなくてもよさそうですけど」

謙信「確かに取るに足らぬ戦の類ではあるが、近頃の俺には戦の喧騒が足りていない。気晴らしに参戦して暴れ回るつもりだ」

幸村「あーあー…その国のやつらも気の毒に」

(気晴らしが戦って……私にはやっぱり想像もつかないな)


謙信「用は済んだ、俺は行くぞ」

佐助「どちらへ?」

謙信「酒だ。ここへ寄ったのはついでだ」

「お酒って……こんな時間からですか?」

夕刻に近いとはいえ、まだ辺りも明るい。

(そういえば、食事処で逢った時も……)


----------

謙信「聞くに堪えない諍いのせいで、俺の酒が不味くなった」

----------


謙信「酒を飲むのに、時刻が関係あるのか」

「ええっと、あるとは思いますけど…」

あまりに堂々と言い切られて、自信がなくなった。

(まあ、この時代だと明るいうちから飲むのも珍しくはないのかな)

佐助「双葉さん、謙信様は無類の酒好きなんだ」

「へえ、そうなんだ。謙信様はたくさん飲まれるんですか?」

謙信「飲みたいと思っただけの量を飲む」

(それって…)

幸村「つまりは浴びるほど飲むってことだ。しかも謙信様は酒乱だからなー」

「酒乱?」

謙信「誰が酒乱だ。人聞きの悪いことを言うな。俺は酒に酔ったことなどない」

幸村「やたら酒に強いことは知ってますけど、飲み方が性質悪いんですよ」

「幸村、酒乱って、具体的にどんな感じになるの?」

幸村は佐助くんと顔を見合わせる。


幸村「佐助や俺を巻き込んで、とにかく朝まで飲み続けようとしたり」

佐助「その場の思いつきでいつにも増して突拍子のない命令をし始めたり……色々」

「なるほど…」

(それは大変そうだな)

幸村「ま、とにかく酒を飲むのはいいですけど、騒ぎは起こさないでくださいね」

謙信「断る……と言いたいところだが、今日で安土の酒も飲み納めだ。静かに愉しむつもりでいる。無闇に騒ぎ立て、無粋な輩に酒の席を邪魔されるのも癪にさわるからな」

言いたいことは終わったとばかりに、謙信様は踵を返す。

「あ…」

(行っちゃった……。お別れなんだから、もう少し話せばよかった。謙信様のおかげで新しい環境に馴染めたってお礼したかったのに)

遠ざかる背中を見送っていると、心の中にもやもやが広がった。


幸村「飲み納めっつっても……あの人、ここのところ、連日飲んでるだろ」

佐助「なかなか戦が起こらないから、酒を飲んで気を紛らわせているんだろうな。そういえば、昨日は梅干しとお酒しかとってなかった」

「え、ご飯食べてないの?」

佐助「ああ。普段は結構食べる人なんだけど、気が向かなかったみたいだな」

幸村「わりと気分で動いてるところあるよな、謙信様は」

(昨日食べてないって言うのは、ちょっと心配だな)

佐助「双葉さん、どうしたの?考え込んで」

(そうだ、考え込んでても仕方ないよね。したいことは自由にするって決めたんだから)

「佐助くん、幸村。私、ちょっと行ってくるね!」

幸村・佐助「え?」

ふたりの返事を待たず、その場から足早に立ち去る。


(謙信様は、まだあまり遠くに行ってないはず)

雑踏の中、きょろきょろとその姿を探した。

(……いた!)

「謙信様!待って下さい」

謙信「……双葉?」

かすかに目を見張って足を止めた謙信様のもとに、歩み寄る。


謙信「今度は何の用だ」

(そういえば、最初に食事処で助けてもらった時も、お礼を言うためにこうして謙信様のあとを追いかけたな)

ついこの間の記憶と重なって、少しだけおかしくなった。

「すみません。伝え忘れたことが、ふたつあったので」

謙信「伝え忘れたこと?」

「はい」

左右で色の違う瞳を、まっすぐに覗き込む。

「謙信様に言われた通り、私、周りに自分らしくぶつかってみました。周りの人たちと打ち解けることができたし、やりがいのある仕事も見つけられました。謙信様のおかげで、色々吹っ切れちゃいました。ありがとうございます」

謙信「俺はお前のために何かした覚えなどない。そんなことでわざわざ追いかけてくるとは、物好きにもほどがある」

謙信様の冷たい眼差しに呆れのような表情が浮かぶ。


謙信「それで、今のが一つ目の用件か」

「はい。それで、ふたつ目の用件ですけど……」

(ここからが本番だ)

「この前のお礼も兼ねて、どこかのお店でご飯をごちそうさせてもらえませんか?」

謙信「礼など不要だ」

(うーん。やっぱり……?)

にべもなく断られ、肩を落とす。

(謙信様が越後に行ってしまえば二度と逢うことはないだろうし、言葉だけじゃなくて、何か行動でお礼をしたかったんだけどな。昨日はご飯を食べてないっていうし、いい考えだと思ったのに)

なんとか説得できないか考えをめぐらせていると、

数日前に安土城でみんなと交わした会話がふと脳裏をよぎった。

(そうだ、謙信様がそんなにお酒が好きなら……)


「知り合いに聞いたんですけど……この城下に幻の地酒を出すお店があるそうですよ」

謙信「幻の地酒だと……?」

謙信様の秀麗な眉がぴくりと動く。

(あ、食いついた…っ)

「はい。生産数が少なくて町の外には流通してないらしいです。ひと口飲んだだけで、その味を忘れらラないって聞きました」

謙信「ほう……それほどまでにか」

ここぞとばかりに私が言い募ると、謙信様の目が爛々と輝き出した。

謙信「背に腹は代えられん。その店に案内しろ。今すぐにだ」



↓恋の試練以下ノーマル↓

(やった!)

「任せてください」

謙信様に笑いかけ、一緒に歩き出した。

午後の日差しが夕方の気配を含み始めた頃、私たちは目的地にたどり着いた。

お店を見た謙信様が不審げな顔になる。

謙信「ここは茶屋ではないか」

「はい。だけど、お店の主人が蔵元と親しいらしくて、今の時期だけお酒を提供してるって聞きました。お酒に合わせたお食事もあるそうです。御礼ですから、お好きなものを頼んでくださいね」

謙信「……お前、本当に支払いを持つつもりでいたのか」

「え?」

謙信「女に奢られては、酒の味がわからなくなる。勘定はすべて俺が払う」

「でも、それじゃお礼にならないです……っ」

驚く私をよそに、謙信様はさっさと長椅子に腰掛ける。

謙信「この店を教えたのはお前だ。礼というなら、それで充分満たしている」

(そうかな?全然足りない気がするけど)

謙信「馳走などと生意気なことは考えず、食べたいものでも勝手に注文しろ」

「でも…」

(むしろ、それだったら謙信様はひとりで静かに飲みたいんじゃないのかな?)

謙信「何をもたついている。さっさと座れ」

御品書の紙を見ていた謙信様が、煩わしそうに顔を上げた。

謙信「相手が誰であろうと、案内をさせるだけさせて帰すような真似はしない」

(…そこまで言ってくださるんだったら、お言葉に甘えよう)

「ありがとうございます」

謙信様の隣にそっと腰掛ける。

謙信「さっそく注文するぞ」

お店の人に注文してしばらくすると、お酒とお料理が運ばれてきた。

謙信「これが幻の地酒か」

とっくりを前に、謙信様の唇が満足げに吊り上がる。

(本当にお酒が好きなんだな)

「お注ぎしますね」

謙信「……ああ」

謙信様が差し出した盃に、静かにお酒を注いだ。

謙信様はそのまま盃を口元へ運び……

謙信「なかなかだな」

(っ、満面の笑みだ……やっぱり破壊力あるな)

蛍の舞う夜に見た綺麗な笑みが、惜しげもなくこぼされた。

謙信「茶屋で供される酒とは盲点だった。有益な情報をよくぞ俺にもたらした、でかしたぞ」

「いえいえ、喜んでもらえたならよかったです」

謙信様は機嫌よく盃を傾ける。

(意外と感情表現豊かなところもあるんだ。なんだか可愛いかも……)

謙信「何を呆けて見ている。お前も飲め」

謙信様がもうひとつの盃にお酒を注ぎ、私に差し出す。

「ありがとうございます」

盃に口をつけ、ゆっくりと傾ける。

(あ、飲みやすいお酒だな)

「本当に美味しいですね……!」

謙信「ああ」

一緒に頼んだおつまみも美味しくて、思わず頬が緩む。

「謙信様が越後に行ってしまう前に、こうしてお話ができてよかったです」

謙信「どういう意味だ」

「だって、そうしたらもうお逢いする機会もなくなってしまうでしょう?二回も助けていただいた恩を、何も返せないままお別れしてしまうのは哀しいですから」

謙信「……妙に律儀なことを言う女だな、お前は」

「そうでしょうか?」

お酒を飲みながら、首を捻る。

「私には、謙信様の方が律儀に見えます」

謙信「何……?」

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謙信「食事処でお前があの男たちと揉めた時、俺が割って入り奴らを中途半端に刺激した。浪人どもが今日、お前を追いかけ回したのはそのためだ。穏便に済ませるのは向いてない。ならば、最初から徹底的に潰しておくべきだった。となれば、今からでも原因の男たちを滅して問題を解決するのは俺の役目だろう」

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(さっきだって……)

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謙信「何をもたついている。さっさと座れ。相手が誰であろうと、案内をさせるだけさせて帰すような真似はしない」

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謙信様と接した時間は短いけれど、それでも少しずつわかってきたことがある。

「……謙信様って一見冷たい気がするけど、どこか優しくて義理堅い方ですよね」

謙信「……つまらぬ戯言を、言ってくれる」

(気を悪くさせちゃったかもしれないな……)

眉を寄せた謙信様を見て、口をつぐむ。

しばらくふたりとも黙ったまま、盃を傾けた。

(それにしても、謙信様は本当にお酒が強いんだな)

水のようにお酒を飲み干し、謙信様は次々にとっくりを空けていく。

そのうちに空にゆっくりと茜色が差し始め……

(ああ、夕暮れ時だな。遅くなる前に、帰らないといけないけど……)

燃えるような空を見上げると、わけもなく寂しくなった。

謙信「……お前は」

「っ、はい」

不意に口を開いた謙信様に驚いて、声が上ずる。

謙信「お前は先ほど、やりがいのある仕事を見つけたと言っていたな」

「そうです、お針子の仕事を任せてもらえることになって」

謙信「針子か」

「それが、どうかしましたか?」

謙信「いや……」

謙信様は静かに視線を逸らし、ひと息に盃の中身を空けた。

謙信「――ふと気になって、聞いてみただけだ」

(……謙信様が純粋に私のことに興味を持ってくれたのって、初めてだな)

意識した途端、どうしてか胸が騒ぎ出す。

謙信「お前らしい、他愛ない仕事だな」

「他愛ないけど、すごく楽しいです」

素っ気なく投げられた謙信様の言葉を拾って、会話を続ける。

「謙信様にとっては……戦が楽しいことなんですよね?」

謙信「ああ。血が沸き立つほどにな」

(その心を理解するのは、きっと難しいことだ。もしかしたら無理なのかもしれない。だけど、これだけは言える)

「越後へ行っても、どうかご無事でいてくださいね」

謙信「なぜ、そのようなことを言う。俺はいずれこの安土に戦を仕掛ける男だ」

「……わかっています」

謙信「怪しいものだ」

冷ややかに笑われて、哀しくなった。

「戦は嫌いです。だけど、謙信様が悪い人には思えません。だから、命を落としてほしくないんです。あなたが安土の敵でも、たとえこれが最後のお話になっても……こうしてお近づきになれて嬉しかった」

謙信「……わけのわからないことを言う」

(謙信様……?)

左右で色の違う瞳に、不思議な熱が揺れる。

しばらく見つめ合ったあと、謙信様はふっと私から視線を逸らした。

謙信「まもなく、陽が暮れるな」

「……そうですね」

(今の顔、なんだったんだろう)

気だるげにお酒を飲み干す謙信様を眺めるけれど……

その瞳の熱は失せて、変わりゆく夕刻の空が映っているばかりだった。

上杉謙信 4話(前半)



※ネタバレ注意


※名前は双葉です



ーーーーーーーーー


秀吉「遅いぞ!」

三成「双葉様、お帰りなさいませ」

「秀吉さん、三成くん!」

秀吉「こんな時間まで何してた」

「ちょっと市を見回るつもりが、色々あって遅くなっちゃったんです。ごめんなさい」

秀吉「ちょっとどころの話じゃないだろ」

(すごく怒ってる……秀吉さんにとっては、要注意人物が黙って姿を眩ませたみたいなものだよね)

「本当にすみません。でも、私、逃げたりしないですよ。行くところもないですし…」

秀吉「そういう問題じゃない」

(…違うの?)

三成「秀吉様は先ほどから双葉様のことをひどくご心配されていたのですよ。もちろん、それは私も同じことです。道に迷ったり危険な目に遭ったりはしていないかと、城下を探しに行こうかと思っていたところです」

「え、そうだったの……?」

(三成くんはわかるけど、秀吉さんまで心配してくれたのは意外かも)


「心配かけてごめんなさい」

私がおずおずと頭を下げると、秀吉さんは深いため息を吐いた。

秀吉「身柄を預かってる手前、お前に何かあったら困る」

三成「きっと何か理由があったのですよ。そうですよね、双葉様」

(謙信様のことは話せないけど、浪人たちのことは正直に言った方がよさそうだな)

「実は…」


以前に城下で浪人たちに絡まれてしまったこと、

その人たちに今日、襲われそうになったことをかいつまんで説明する。


秀吉「何だと」

三成「あの日、私がおそばを離れたあと、そんな事態に巻き込まれていたなんて…申し訳ありません、双葉様」

「そんな、三成くんのせいじゃないよ!」

秀吉「どうして最初に絡まれた時に言わなかった」

「わざわざ報告するほどのことじゃないと思って……すみません」

もう一度謝った私を見て、秀吉さんの顔が曇る。

秀吉「いや……よく考えたら、思いっきり疑われてる状況で俺たちを頼れっていうのも無理があったな。その辺りのことに気を配ってやれなかった俺も悪かった」

「秀吉さん…」

(あれ、秀吉さんって実はすごくいい人だったりする……?)

秀吉「今度から何かあったら必ず報告するように」

「ありがとうございます…」

三成「今夜はお疲れでしょうから、ゆっくりと休んでください。詳しいお話は、また明日にでも」

「うん、三成くんもありがとう」

(なんだか、気を使わせちゃったみたいだ)

秀吉さんと三成くんは遠慮する私をわざわざ部屋まで届けてくれたあと、

何かを話し合いながら去っていった。


そして私が秀吉さんに浪人たちとの騒動について詳しい報告をしてから、三日後……


(信長様から急なお呼び出しを受けたけど、どうしたんだろう?あの方と話すのは、少し緊張する)

自分を奮い立たせて廊下を進んでいると、

途中、通りがかった部屋から城で働く女性たちの声が聞こえてきた。


女1「そっちの着物、いつ完成する?今回の注文量が少し多くて」

女2「明日中には終わりそうだから、私が手伝うわ」

女3「ねえ、帯の色は藍色でいいのよね?」


(お針子さんたちだな)

城下で綺麗な布を見た時のことをふと思い出す。

(やりがいのありそうな仕事だな。……羨ましい)


そんな考え事をしている間に、広間の前に着いた。

(よし、いよいよだ)

「失礼します」

ぐっと息を吸い込んで襖を開けると……


信長「来たか、かな」

(わ、他の人たちもいる……)

勢ぞろいする武将たちの姿に、ますます緊張が高まった。


三成「双葉様、どうぞおかけください。今、ちょうど会議が終わったところなのです」

「うん、ありがとう…」

すすめられるままに正座して、みんなの顔を見回す。

「あの、何かご用でしょうか?」

信長「秀吉から報告を受けたぞ。貴様、城下で浪人と諍いを起こしたそうだな」

(っ……信長様にまで話が行ったんだ)

「……その通りです」

信長「俺の持ち物でありながら、なんとも不用心なことをしたものだ。なぜ、そのような真似をした?」

四方八方から武将たちの視線が突き刺さり、思わず声を詰まらせる。

(何て説明しよう……)


----------

謙信「先ほども言ったはずだ。俺に対してお前のような無遠慮な口を利く女は、他にいない」

「そ、それは大変失礼しました」

謙信「謝罪を求めているわけではない。ただ――その無遠慮差で、周りの環境とやらを打ち壊していけばいいと思っただけだ。乱世の生は短い。ならば、せいぜい己の自由に生きるのだな」

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(そうだ、自分らしく周りとぶつかるって決めたばかりだった。思った通りのことを、正直に伝えるしかない)

心を決めて信長様を見つめ返す。

「お店の人を助けようとしたのは、とっさに身体が動いたからです。お年寄りが暴力を振るわれてるのを見て、放っておけませんでした」

信長「自分の身を危険に晒すとは考えなかったのか?」

「そのことには後から気づきました。もしかしたら、もっと上手なやり方があったのかもしれません。だけど、何もしなかったらきっと後悔していたと思います」

信長「…………」

(呆れられたかな。でも、これが私の正直な気持ちだ)


すると脇息にもたれた信長様が声を立てて笑った。

信長「なんとも他愛なく、短絡的な思考だ」

(そんなに笑わなくても……!)

信長「だが、よくやった」

「え?」

戸惑っている私を見て、秀吉さんが口を開く。

秀吉「お前の話を聞いたあと、食事処の店主を初めとした城下の町人へ聞き込みをしてな。件の浪人たちは他の店でも狼藉を行う、有名な鼻つまみものだった」

「そうなんですか……?」

(迷惑をかけてたのは、あのお店だけじゃなかったんだ)

秀吉「さっそくひっ捕らえて相応の処罰を与えておいたから、安心しろ」

「もう捕まったんですか!?」

(話をしたのはついこの前のことなのに、すごいな。でも…)

「いくら城下で狼藉を重ねてたにしても、信長様や秀吉さんが動くほどのことじゃないような…」

信長「その考えは浅はかだな。治安が乱れれば、民の仕事が妨げられ国の発展に影響が出る。俺が民の暮らしに気を配るのは当然だ」

「民の暮らしですか……」


目から鱗が落ちたみたいに、はっとする。

(そうか。武将って、戦うだけが仕事なわけじゃないんだ。この時代には警察も裁判所もないから、上に立つ人が目を配ってないとすぐに治安が乱れてしまう。信長様は、町の人の暮らしを守って豊かにしてるんだな)


三成「双葉様、食事処の店主が貴女にくれぐれもお礼を伝えてほしいと言っていたそうですよ」

「そんな……。実際に浪人たちを撃退したのは私じゃないよ」

(謙信様はまだ安土城下にいらっしゃるのかな?あまり危険なことをしてないといいけど)

ふと浮かんだ考えにけりをつけて、言葉を続ける。

「とにかく、私はお礼を言われるようなことは何も」

信長「一番初めに店主を庇ったのは、貴様だと聞いてるぞ。何事においても最初に動いた者は、それだけで一定の評価に値する。他人に左右されない行動基準がその者の中にあるという証だからな」

「そうでしょうか……?」

(嬉しいけど、過大評価な気がするな……)

自信が持てなくて首を傾げていると、信長様がにやりと笑う。


信長「この俺がそうだと言っている。貴様があの日、燃え盛る本能寺から俺を連れ出したのも、己の行動基準に従ったためだろう」

「あ……確かに、そうかもしれません」

(あの時も、怖いとか危ないとか考えるより早く行動してた)

信長「貴様はこの俺の命を救っただけに留まらず、城下の治安維持に貢献した。やはり俺にとって幸いを運ぶ女であることが証明されたな。褒めてやる、双葉」

(言い方は相変わらず偉そうだけど、こんなに褒めてもらえるなんて)


気がつくと、他の武将たちもどこか温かい視線を注いでくれていた。

三成「よかったですね、双葉様!」

政宗「やっぱり面白い女だな、気に入った」

家康「面白いっていうか、ただの考えなしでしょう。……まあ馬鹿みたいな度胸だけは認めるけど」

光秀「考えなしも突き抜けると人の心を動かすものだ」


秀吉「双葉」

秀吉さんが真面目な顔で私に呼びかける。

「は、はい」

秀吉「俺はお前を誤解してた。浪人たちから店主を守ろうとしたお前の正義感は本物だ。本能寺で御館様を助けてくれて、ありがとな」

「っ、ううん…。信じてくれてありがとうございます」

秀吉「疑った詫びに、これからは何でも頼ってくれ」

「はい!」

秀吉「ああ、喋り方もかしこまらなくていいぞ。お前と親しくなりたいからな」

政宗「抜け駆けか、秀吉。双葉、俺も敬語はなしでいい。呼び方も『政宗』でいいから間違えるなよ」

「う、うん。わかったよ、ふたりともありがとう」

(嬉しいな)

さっきまでの緊張が嘘のようにほぐれていく。


信長「褒美に欲しいものがあったらくれてやる、言ってみろ」

「褒美!?そう言われても、ええっと……」

(あ、そうだ!)

我ながらいい考えが閃いて身を乗り出す。

「私をお針子として働かせてくださいませんか?」

信長「針子だと?」

「はい!」

私が勢い込んで返事をすると、みんなは怪訝そうに顔を見合わせた。


家康「働かせてくださいって、それのどこが褒美になるの」

「着るものを作るのが、もともと好きなので…自分が作ったもので誰かを喜ばせる仕事をするのが、夢だったんです」

政宗「へえ。お前にそんな一面があったなんて驚いた」

光秀「それにしても高価な装飾品や着物を欲しがるかと思えば、無欲なことを言うものだ」

信長「予想を上回るうつけ者だな、双葉。ますます気に入ったぞ」

「そ、それはどうも」

(そんなに変なこと言ったかな)

急にきまりが悪くなって、その場で座り直す。


信長「良かろう。この安土城で貴様が針子の仕事につけるよう取り計らおう。無論、成果に応じて報酬も与える。しかと励むが良い」

「本当ですか?ありがとうございます!」


(好きなことができるのって、やっぱり嬉しい)

やりがいのある針子の仕事も見つかり、本能寺の一件にまつわる誤解も解け、

安土城の中に居場所がなくて悩んでいたのが嘘みたいだ。

(謙信様が言ってくれたみたいに、乱世だからこそ自由に生きよう。もしまた逢えたら、お礼を言わなきゃ)

こうして、私の戦国ライフは改めて一歩前に踏みだすことになったのだった。




(市へ出るのも久々だな……!)

お針子の仕事で初給料をもらった私は、達成感に溢れて町へ出掛けていた。

(この時代で稼いだ初めてのお金を、どうやって使おうかな。綺麗な布を買い足すのもいいけど、お世話になってる人たちへ何かプレゼントするのもいいな)

弾む足取りで歩いていると……


佐助「双葉さん?」

「佐助くん!」

道の端から声をかけられて、立ち止まる。

???「佐助、誰だよ、その女」

「あ!あの時の…」

(幸……佐助くんが言ってた幸村って人だ)

いくつかの品物を並べたござの向こうに腰を下ろした幸村が不審そうに私を見ていた。

(何をしてるんだろう?)


佐助「幸村、彼女とは一度会ってるだろ、良く見て」

幸村「あ?あー…崖から飛び下りそうになってた変な女じゃねえか」

幸村は私を覗き込むように見つめたあと、ぽんと手を打つ。

「変な女って……失礼じゃない?」

幸村「変なもんは変だろ。大体、お前、何で安土にいるんだよ」

(ええっと……)

「まあ、それには深い事情があって…。今は安土城下の武家のもとで働いてるの」

以前の佐助くんを見習って、たどたどしいながらに言い訳する。


幸村「怪しい」

(う、鋭い……。いや、私の誤魔化し方が下手すぎる?)

佐助「幸村、彼女は俺たちの素性をもう知ってる。警戒しなくてもいい」

幸村「は?なんで知ってんだよ」

佐助「謙信様がこの前、偶然にも城下で彼女と再会したんだ」

佐助くんがそこまで言うと、幸村が納得したように大きく息をついた。

幸村「なるほどなー。あの人、自分の素性を隠す気がないにもほどがあるよな」

(よかった、なんとか切り抜けたみたいだな)

「幸村はここで何やってるの?」

幸村「見りゃわかるだろ、行商だよ」

「行商?」

佐助くんがこっそりと耳打ちしてくれる。

佐助「流しの商人ってことにしておいた方が、敵地では何かと都合がいいから」

(あ、偵察のための隠れ蓑ってことか)

「そうなんだ…。大変だね」

かがみこんで品物を手に取って見る。

「これ、女性用の装飾品?」

幸村「おー…。言っとくけど、理由は聞くな。俺だって好きで扱ってるわけじゃねー」

「そうなの?でも、すごく可愛い。確かに幸村には似合わないかもしれないけど」

幸村「似合ってたまるか」


かがみこんで見ていると、ふと上から影が落ちた。

???「騒がしいな」

(え……?)

気だるげな声にドキリとして振り向くと――

上杉謙信 第3話(後半)



※ネタバレ注意


※名前は双葉です。



ーーーーーー


謙信「何を言っている」

「え?」

謙信「先ほども言ったはずだ。俺に対してお前のような無遠慮な口を利く女は、他にいない」

「そ、それは大変失礼しました」

(なにしろこの時代に来るまで武将と会話したことなんてなかったから、マナーがわからないな)

謙信「謝罪を求めているわけではない。ただ――その無遠慮さで、周りの環境とやらを打ち壊していけば良いと思っただけだ。乱世の生は短い。ならば、せいぜい己の自由に生きるのだな」

「自由に…」

飾り気のない謙信様の言葉が、すとんと胸の中に落ちる。

(私の悩みはすごく単純なことだったのかもしれない。謙信様のおかげで、そんな気がしてきた)

「ありがとうございます!私、頑張ってみます」

謙信「お前の意見に感想を述べたくらいで、いちいち礼を言うな。好きにしろ」


冷たく聞こえる言葉も、もう怖いと思わなかった。

「はい、好きにします」

(不思議だな)

知らず知らずのうちに口元が緩む。

それを見た謙信様が軽く目を見張った。

謙信「お前は……」

(どうしたんだろう、じっと見て)


「謙信様?」

謙信「いや……お前に似合いの、呑気な笑顔だと思っただけだ」


(呑気な笑顔……。そういえば、謙信様の前で笑ったの、初めてかもしれない)

「ええっと……褒め言葉、じゃないですよね」

少し気恥ずかしくなりながらそう尋ねると…

謙信「当たり前だ」

素っ気ない言葉とは裏腹に、謙信様の薄い唇が穏やかに弧を描いた。

(っ…謙信様の方こそ、こんな顔で笑うんだ…)

端正な顔に浮かんだ笑みは綺麗で、どこか儚げで……一瞬、呼吸を忘れる。

(こんなに純粋な笑い方をする人だったんだ)


謙信「何だ」

視線に気づいた謙信様が、むっとしたように私を見つめる。

(あ、せっかくの笑顔が……。もったいない)

「っ、いいえ。なんでもありません」

(もっと見たいなんて言ったら、絶対に笑ってもらえなくなる気がするから)

誤魔化して、さっきの笑顔を頭の中に刻みつける。


謙信「なら良いが……。お喋りはお終いだ、行くぞ」

「あ、はい!」

私と謙信様は、しばらく黙って歩き続ける。


すると……

(ん……?何か光ってる)

さらさらと流れる小川のそばへ差し掛かった時、闇の向こうに小さな淡い光が漂う。

謙信「蛍か。上流に群れがいるようだな」

(野生の蛍がいるんだ、すごい……!)

「あの、少し近くで見ていきませんか?」

謙信「なぜ俺がそのようなことに付き合わねばならん」

「いいじゃないですか。通り道だし、きっと綺麗ですよ」

わくわくしながら謙信様をお誘いする。

謙信「なんだ、急に厚かましくなったな、お前は」

「自由に生きろと仰ってくださったのは謙信様ですから」

謙信「おい、待て。勝手に行くな」

文句を言いながらも、謙信様はしっかりとついて来てくれる。


上流に向かい水辺に近寄ると…

(わあ……)

想像以上の光景が待ち受けていた。

「こんな風景見たの、初めてです」

謙信「他愛ないことではしゃぐ女だ」


(この時代の人にとっては、そんなに珍しくないのかな?)

いくつもの淡い光が辺りを照らして、この世のものと思えないくらい幻想的だ。

大きな物音を立てたらそれが壊れてしまう気がして、声を潜める。

「蛍の光って、どこか儚い感じがしますね」

謙信「蛍はその短い生の中で番を求め、すぐに死ぬ。儚いのも当然だ」

「だからこそ、きっと光るんですね。自分の命をかけて相手を呼ぶために」

謙信「……どうせ死ぬというのに、愚かしいことだ」

「そうでしょうか……?でも、こんなに綺麗です」


謙信様は物憂げに、蛍の舞う空を見上げる。

謙信「……そうだな。愚かで、美しい光景だ」


どこか哀しく笑った謙信様の白い横顔が、闇の中でほのかに浮かび上がっている。

冬の湖面のような瞳の中に、蛍の淡い光が瞬いてその色を和らげていた。

(綺麗……)

視線を敏感に感じ取った謙信様が、こちらを向く。

(……っ)

ぱちりと目が合って、息を呑んだまま言葉が喉に詰まる。


謙信「――なぜ、そのような顔で俺を見る」

(そのような顔……?)

返事を待たず、謙信様の手が伸びてきて…

「っ…謙信様?」

謙信「……!」

繊細な指先が、私の頬に触れる直前で止まる。

謙信「――お前があまりにも百面相をするせいで、調子が狂った」

「百面相…。それ、奉公先の人たちにも言われました」

(乱世を生き抜くために、もっとポーカーフェイスを身につけた方がいいのかな)


謙信「誰にでもそういう顔を向けると言うのか。……無防備にもほどがあるな」

「今、何か言いましたか?」

ひとり言のように何かを呟いた謙信様を問いただすけれど……

謙信「ただの戯言だ」

謙信様はすべてに飽きてしまったかのように、河原に背を向けて歩き出す。


謙信「気が済んだのなら行くぞ。――双葉」

「え……」


(っ…私の名前…初めて、呼ばれた)

驚いて立ち尽くしていると、謙信様が不審そうに振り返る。

謙信「どうした。まだ見足りないのか」

「いいえ、今行きます……っ」

謙信「……早くしろ」

謙信様のあとを追いながら、かすかに頬が熱くなるのを感じた。

(少しは、謙信様と近づけたってことでいいのかな)

あれほど遠い世界の人に思えた謙信様の背中に、今は手を伸ばせば触れられそうな気がした。

(触れたら氷のような拒絶が待ってるのかもしれないけど)

幻のような光景に背を向けて歩いていても……

瞳の奥には、いくつもの儚い光とその中にたたずむ謙信様の姿が鮮やかに焼付いていた。




その夜、謙信様に大通りまで送ってもらった私はようやく安土城へたどり着いた。

(すっかり遅くなっちゃった)

渡された橋の上を城門へ向かって歩いていると……


秀吉「遅いぞ!」

三成「双葉様、お帰りなさいませ」

「秀吉さん、三成くん!」