時をかけたい私のブログ

イケメン戦国についてたくさん変更していきます。ネタバレ多く含むのでご注意を。

スマホアプリ、イケメン戦国時をかける恋について色々書いていきます。
※ネタバレ多く含みます

上杉謙信 第2話(後半)



※ネタバレ注意。


※名前は双葉です。


ーーーーーーー


そして数日後――

私はまた、城下の雑踏の中を歩いていた。

(この時代での生活には慣れてきたけど、安土城ってなんとなく居心地が悪いんだよね)

世話役の仕事を特に与えられることもなく、

信長様を初めとする武将たちはみんな忙しそうで声もかけづらい。


(でも、そろそろ帰らないと日も暮れちゃうな。あと、少しだけ市を見て戻ろう)

城下の市には、三成くんが教えてくれた通り色々なものが売っている。


(わあ、綺麗な布……!)

立ち止まって、一軒の店先に出ている反物を眺める。

鮮やかな色や繊細な柄に目を奪われると同時に、押し込めていた心細さが込み上げてきた。

(服を、作りたいな……。本当に私、五百年後に戻ってデザイナーになれるのかな……だめだ、弱気になるのはよくない)


気を取り直して顔を上げたその時……

「あれ、あの人たちって……」

道の向こう側にいる男の人たちの姿が目に入る。


浪人1「っち…むしゃくしゃするぜ」

浪人2「憂さ晴らしでもしねえとやってらんねえな」

(嘘。あの時、食事処で乱暴してた人たちだ。見つからないうちに、ここから離れよう)

こっそりと歩き出そうとするけれど……


浪人1「おい、あの女…」

浪人2「…!見覚えのある顔じゃねえか」

(見つかった!逃げなきゃ)

こっちに向かって来ようとする男たちを見て、慌てて駆け出す。

浪人1「あっ、待ちやがれ!」

(もう嫌、何でこんな目に…)

いくつもの路地を通り抜け、走り抜け――

(どうしよう、中心部からかなり離れちゃった。しかもいつの間にか真っ暗…)

灯りもない城下の外れに来てしまった私は、呆然と辺りを見回す。

(とりあえず、あの人たちが諦めるまで身を隠さなきゃ)

背の高い草むらの間に身を隠していると……


???「おい」

(見つかった!?)

後ろから声をかけられて、小さく悲鳴を上げる。

謙信「……頓狂な声を上げるな」

「謙信様!?どうしてこんなところに…」

(あの男の人たちじゃなくてよかったけど)

宵闇にほの白く身体を浮き上がらせ、謙信様が不機嫌そうにたたずむ。

謙信「夕餉の前に、野盗でも倒して腹を空かせようと思っていたところだ」

(野盗狩り……?食前の運動にしては物騒すぎる)


謙信「お前の方こそ、このような時刻に町外れで何をしている」

「実は……この前、食事処で乱暴してた男の人たちに追われて逃げてきたんです」

謙信「あの浪人どもが?」

「はい。まだ探してるかもしれないので、もう少しここで待ってから帰ります」

(途中で見つかって追いかけられませんように…)


謙信「…………」

ふと気がつくと、謙信様が何かを考えこむような顔をしていた。

「謙信様?どうかされたんですか?」

謙信「――仕方ない。お前の奉公先まで俺を案内しろ」

「えっ」

謙信「お前とともに行動すれば、あの浪人どもが、のこのこと襲ってくるかもしれん。退屈しのぎに返り討ちにしてくれる」

(動機は物騒だけど、要するに送ってくれるってことか…)

謙信「反論があるのか」

「い、いいえ。ないです」

高圧的な口調に首をすくめ、反射的に返事をする。

(怖いのは確かだし、お言葉に甘えてもいいのかな)

「じゃあ、大通りまで送っていただけますか?住んでいるところはその近くなので」

謙信「良かろう。さっさと行くぞ」

「はい……っ」


謙信様に促され、歩きだす。

(おかしなことになったな……女嫌いで有名な敵陣の武将に送ってもらうなんて)

草むらの間を吹き抜ける風の音が、気まずい沈黙を埋める。

私の少し先を歩く背中を、懸命に追いかけた。


謙信「久しく忘れていた。女というものは、足が遅い」

「っ、すみません」

焦って早足にしようとするけれど…

謙信「急がせるつもりはない。走って転ばれても手間だ。そもそも女の足が遅いのは、危険な目に遭わず生涯を安穏のうちに過ごすように定められているからだ」

(え……?)

謙信様はすっと歩調を緩めて歩き続ける。

(今の台詞、どういう意味?それに、私の速さに合わせてくれた?)

「ありがとうございます。あの…」

謙信「礼は不要だ」


凍えそうな声にぴしゃりと疑問を遮られ、唇を噛んだ。

(なんだか……謙信様は女嫌いというよりも、わざと遠ざけようとしてるみたいだ)


それを確かめるすべもなく考えあぐねていると、


浪人1「いたぞ、捕まえろ!」

草を踏み分ける乱暴な足音とともに野卑な声が響いた。

浪人2「ちょこまか逃げ回りやがって。覚悟しておけよ、お嬢ちゃん」

「ここまで追いかけてくるなんて……!」

男たちのどす黒い執念にぞっとする。


謙信「ほう、思ったより早かったな。だが、おかげで手間が省けた」

(あ……)

隣に並び立った謙信様の唇が愉悦の形に弧を描いた。

(笑ってる……)

人の笑顔を怖いと思ったのは初めてだ。

駆け寄ってくる浪人たちを前に、謙信様の身体から戦いの飢えがかすかに滲むのがわかる。


浪人2「おい…連れの男、この前の奴じゃねえか!?」

謙信「ようやく気付いたか。だが、老人を虐げ女を追いかけ回す愚か者にしては記憶力がいい」

浪人1「っ……しゃらくせえ。この前は不意を突かれただけだ。やっちまおう」

浪人2「食らえ!」

抜き放たれた刀がぎらりと光りながら謙信様に迫り――

(危ない!)


謙信「軟弱な太刀筋だ」


刹那、目にも止まらぬ速さで抜刀した謙信様が男たちの斬撃を弾いた。

浪人1「ぐっ」

ただ一度の打撃で男のひとりは刀を取り落とす。

(すごい……!)

浪人2「てめえ!」

謙信「失望した。雑魚相手の戦いほど気落ちする出来事はない」

斬りかかってくるもうひとりの刀を難なく受け止め、謙信様は嘆いた。

(挑発じゃなくて、本心から言ってるみたいだな)

無造作に振るわれた刀が、白くきらめいて相手の刀を打ち払う。

その動作は戦いの最中なのにひどく優雅で――視線が離せなくなる。


浪人1「な、なんだお前は…」

謙信「お前らに名乗る名はないと、この前も言ったはずだ」

静かな迫力にあてられ、浪人たちは次第に後ずさる。

浪人2「ま、まあ、待てよ。俺たちも冗談が過ぎた、話せばわかるって…」

謙信「話すことなどない――俺が間違っていた」

浪人2「え?」

旗色が悪いとみて取ったのか言い訳を始める浪人の声を、謙信様が冷たく遮る。


謙信「お前たちのような雑魚など、斬って捨てる価値もないと思っていた。だから、一度は見逃した。だが、違った。お前たちは生きているだけで害を為す」

物憂げに刀を構えた謙信様の目が、すっと細められた。

謙信「己の愚かさを悔いろ。……この世ではもう間に合わなかったとしても」

恐ろしいほど静かな声に、夜の風ごと空気が凍りつく。

(っ……殺す気なんだ、この人たちのこと)

不吉な予感に心臓がぎゅっと締め付けられた瞬間、

闇を切り裂くように謙信様の白刃が走り、浪人たちに迫る。

(だめ……っ)

「待って!」

謙信「何……?」

ぴたりと動きを止めた謙信様が、険しい顔で私を見た。

「その人たちを、殺さないでください……お願いします」

震える声で言い募ると、

浪人1「に、逃げろ」

浪人2「あ、ああ…」

その隙に男たちは転がるように走って行く。

(よかった……)

その場にへたりこんでほっと息をつくけれど…


謙信「なぜ、止めた」

(あ……)

頭上から冷たい声が降ってきて、びくりとする。

「何も殺す必要は、ないんじゃないでしょうか……」

謙信「襲ってきた相手の心配をするとは、お前はずいぶんと余裕があるようだ。その言葉、よほどのぬるま湯に浸かって来たのでなければ、やすやすと口にはできまい」

(……この時代の人たちから見たら、五百年後の世はぬるま湯なんだろうな)

鼻で笑われながらも、なんとか反論を試みる。

「でも、人の命は簡単に奪っていいものじゃないと思います。あなたにも亡くしたら哀しいと思う人がいるんじゃないですか?」


その瞬間、月に雲がかかったように謙信様の瞳が暗く濁った。

謙信「――俺にそんな者はいない」

「え……?」

抜き身の刀を持った謙信様が気だるげに私の前に膝をつく。

謙信「俺にとって、すべての命は平等に無価値だ。息をするように、瞬きをするように命を奪える。このように――」

(あっ)

肩を強く押され、恐怖で声を上げるよりも早く視界が反転する。

月明かりを弾いて白刃の切っ先が落ちてきた。

(斬られる――)

何も考えられず、固く目をつむる。

けれど……

(あれ、痛くない……?)

恐る恐る目を開けると……

刀が地に突き立てられ、視界の隅で鋭い光を放っているのが見える。


だけどそれ以上に恐ろしいのは、すぐそばで私を見下ろす二色の瞳。

謙信「自覚しろ、お前の命は儚い。戦乱に抗うすべを持たぬ女という生き物は、この乱世ではたやすく散っていく」

(怖い。……なのに目が、逸らせない)

虚ろな謙信様の眼差しに、月光が吸い込まれているみたいだった。

(まるで、何もかも諦めてしまってるみたいな顔。脅すようなことをしてるくせに、どうして)

声も上げられず、ただ見つめていると……


謙信「……柄にもない、つまらないことを言った」

謙信様は刀を引き抜き、ゆっくりと立ち上がる。

今までの出来事が夢だったかのように、その瞳には強い意志の光がみなぎっていた。

(いったい、何だったの……?)

身体を起こすけれど、立ち上がる気力はなく地面にぺたんと座る。

どこか優美な仕草で刀を収める謙信様を、ぼんやりと眺めていた。


謙信「何を呆けた顔をしている。さっさと行くぞ」

「え?」

謙信「大通りまで送っている途中だっただろう。夜更けまでここで過ごしたいのか」

「違いますけど…」

(戦いは終わったのに、まだ送ってくれるつもりなんだ。……意外だな)

謙信「もしや、恐怖で立てないのか?」

謙信様は私を呆れたように見下ろして片手を伸ばす。

謙信「世話の焼ける女だ」

(この手を掴めってこと…?)

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